

札幌市西区、琴似に『ウールナッツ』という店がある。パッと見の店の雰囲気は、小洒落た雑貨屋
さん風。壁面には糸の玉、セーターやカーディガンといった類いのものがディスプレイされており、
手芸洋品店であることはすぐに分かるだろう。

ところが、店内を細かく観察すれば、普通の手芸洋品店とは違っている点に気付く。何気なく並ん
でいる糸玉の横に「草木染め」なる文字が掲げられている。そのガイダンスになぞるようにして改め
て糸玉ひとつひとつを丹念に眺めてみると、それぞれの色彩が独特のニュアンスをはらんでいるでは
ないか! 色彩に表情がある、とでもいうのだろうか。例えば、カテゴリーでは同じ「グリーン」に
属する色彩でも、微妙にトーンが異なることでまったく別の色彩のものに感じられたりするのだ。糸
の太さによってもまた然りである。
「店を始める時に『オリジナリティって何なのかな?』って考えたんです。ココだけのものっていう
のが、ほしかったんです。オリジナルの作品を作りたいと思ったら、糸だってオリジナル! そうい
うところから提案する店があってもいいんじゃないかなって思ったんです。そういう理由で、草木を
使い、自分で染めた糸を商品として取り扱う店にしたかったんです」
〈ココだけの糸を取り扱う、オリジナルの店〉というコンセプトで吹田美奈子さんは『ウールナッツ
』という店を開店させたのだ。それは1997年のことだった。

吹田さんが草木染めを始めたのは、イギリス留学がきっかけだった。高校卒業後、絵本のイラスト
レーションを学ぶために渡英したのだが、たまたまそこで草木染めを学んでいる日本人留学生に出合ったのだ。
「初めて草木染めの色を見た時に、本当に素敵だって思えたんです。話しを聞いているうちに、絵本
イラストレーションよりこちら方が面白くなってしまったんですよね。すっかり、のめり込んでしまいました」
草木染めとの出合いは吹田さんの心にある何を覚醒させた。実は、彼女は元来、趣味として編み物
を嗜む女性であったのだ。母親の影響もあって、初めて編み針を持ったのは幼稚園の頃だったという。
絵本イラストレーターを志したのは〈何かを創りたい〉というクリエイター願望に起因したものだ
が、彼女の中にその原点を形づくっていたのは、実は幼少期から嗜む編み物にあったのだ。
趣味として行っていた〈編み物〉と〈草木染め〉が、彼女の中でシンクロしたのかもしれない。そ
こで、すかさす絵本の道から草木染めの道へ方向転換を果たしたというわけだ。傍目には代わり身が
早いように感じられるが、彼女とってはそういった意味で、当然の帰結だったのだ。
イギリスで1年半生活した後、帰国。英国で友人から手ほどきを受けた草木染めを、今度は北海道
の素材を用いて行ってみた。フキノトウ、ササ、ヨモギなど、季節によって面白そうな植物が顔を覗
かせる。1つの色を染め、糸を紡ぐまでの作業は約1週間。かなりの力仕事なのだというが、様々な
植物を試しているうちに、さらなる好奇心に火が点いたのだ。
「一般的な手芸屋さんでは。取り扱う商品はメーカーさんの糸がほとんど。もちろん、その中にも素
敵なものはありますけど、自分の思うようなもの、他にないようなものを作りたいって思ったんですよね」
こうして『ウールナッツ』は開店。当時は、吹田さん自身で紡いだ糸の他、彼女がセレクトした雑
貨、小物を取り扱う、まさに吹田さんの趣味の空間であった。

オープンしてから10年が経過した。手探りで始めた店ではあったが、着実にそのシンパは増えつつ
あるようだ。編み物を趣味として嗜む一般の方を中心に広がり、個性的なアーティストたちの作品も
展示、紹介。店を拠点に様々な交流が行われるなど、ネットワーク基地としての役割も果たしている。
開店と同時に店舗の2階で始めた編み物教室も順調だ。糸を買ってくれた方へのサービスとして行
う手編みの「ワンポイントレッスン」の他、OLさんを対象にした夜間の「ニットカフェ」、機織り
機を使う「手織り」、「草木染め」、「糸紡ぎ」など、カルチャースクールさながらに教室を展開する。
ここ数年のニット雑貨ブームもあって、これから編み物を始めたいという若い女性が頻繁に店に出
入りするようになった。そんな姿を見た時、吹田さんは理想に近付いてきていることを実感する。「
オリジナル」の糸を紡ぎ、「オリジナル」の糸を販売。そして、大好きな編み物を広めていく。そん
な手作り感を大切にした店を評し吹田さんはこう言う。
「もしかしたら、ちょっと欲張りな店なのかもしれない」、と。
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吹田 美奈子さん
草木染めと編み物好きが高じて、1997年に手芸洋品店『ウールナッツ』をオープン。オリジナルの糸
を販売する他、教室を主宰するなどして、編み物の普及に一役かっている。編み物を通じて、モノを
創ることの素晴らしさを伝えたいと願っている。
株式会社ウールナッツ
札幌市西区琴似2条3丁目1-17 TEL. 011-616-6001
営業時間/月〜土10:00〜19:00 定休日/日曜祝日
http://www.woolnuts.com/
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