"rouge"は「口紅」の意であり、キュートでセクシーな女性を象徴。
"non"を付けることで、「素顔の」「本音の」という気持ちを込めました。

ススキノに『味重』(あじしげ)という店がある。  四季折々の食材を用いた日本料理、懐石料理を楽しませてくれる料理屋であり、オーナー料理人の松原滋美さんの名前は、「和」の料理人の世界ではもちろんのこと、食通の間にも広く響き渡っている。知る人ぞ知る名店に数え挙げることができるだろう。そんな松原さんのアシスタントの料理人としていつも横に立っているのが三浦安紀子さんである。松原さんの指示の下、サポート役に徹しながら、いっしょに料理を作り上げている。「おやっさん!」「アッコ!」という呼び合う姿に、師弟の絆の深さを感じさせるものである。  三浦さんが『味重』で働き始めてから、13年ほどが経過している。時々、何年かぶりやってきたお客さんから、「あれっ、まだ居たの?」という言葉を投げかけられることがある。実は三浦さんが勤め始めた当時、この店では自分の他に2人の男性が修行を積んでいた。ところが、勤務して3、4カ月もした時に2人とも辞めてしまい、それから先は自分が1人でおやっさんのサポートをすることになったのだ。  料理人としてまだ駆け出しで、仕事といっても日々の作業に追われる毎日。正直なところ、店を辞めたいと思ったのも一度や二度ではないという。それだけにお客さんの「まだ居たの?」は、三浦さんにとって褒め言葉のようなものであり、「長い間、よく頑張ってきたね」というふうにも聞こえるのだ。そう言われると、ちょっぴりうれしい気持ちになるのだという。

三浦さんの出身は根室市。高校時代を札幌で過ごした後、東京の短大に進学した。大学卒業当時の世は、まさにバブル真っ盛りの時代であり、周りの友人たちは順調に就職先を決めていた。けれど、三浦さんは、将来、とり立ててやるべきことを見つけられないということもあって、就職活動をせずに卒業と同時に札幌へ戻ってきた。そして、なんとく調理師学校に通い始めた。 「東京で一人暮らしをしていた時も、自炊していましたし、料理をするのがとりわけ苦になる性質でもなかったんです。料理を基礎から勉強して、飲食店に1、2年勤めて、それから、結婚でもしようかなぁ、なんて軽く考えていました」   調理師学校を出た後、東急イン・プラザ109の『おばんざい処車屋』で働き始めた。彼女にとって、飲食店での仕事は面白かった。少しずつ経験を積み重ねる中で、彼女の心の中にもう少し専門的に勉強してみたいとの思いが湧き起こってきたのだ。そこで店の総料理長に相談を持ちかけたところ、オーナーが料理人としてカウンターに立ち、従業員と師弟関係を築いているような店で、修行することを薦められたのだ。  そんな時に目にしたのが、北海道新聞夕刊木曜版の「おふたいむ」の記事だった。『味重』を紹介する記事が掲載されており、それを見た時に三浦さんは、「この店なら、さらに自分が成長できるんじゃないか」と考えた。「駄目で元々」と思いながら電話をかけたところ、すんなりと話しは進み、この店で晴れて料理人としての再スタートを切ることになったのだ。それは26歳の夏だった。

三浦さんが店に入るのは毎日午後2時から2時半の間である。前日、おやっさんからの指示を受け、夕方6時の開店に合わせて魚介類や野菜などの下準備を進める。そんな作業をこなしているうちに、おやっさんも店に到着。そして、2人で営業中に差し出す料理の確認をしながら、せっせと下ごしらえを行う。おやっさんの口も滑らかで、真剣な中にも時折、冗談と笑い声が交錯する。ただし、和やかな雰囲気は営業が始まる前まで。開店後、カウンターに立つと、おやっさんの表情は料理人の顔になるのだ。 「普段は気さくですが、カウンターに入った途端に仕事モードに入るんです。そのオンとオフの切り替えが見事で、職人ってすごいなぁって思います」  そんな職人気質は仕事の姿勢にも表れる。おやっさんの料理人としての考え方はシンプルだ。料理人が面倒くさいと思ったら、料理もひどいものになる。だから、面倒くさいと思ったら料理人は辞めた方いい。目の前の料理に集中し、最高の料理をお客さんに差し出すのが、料理人として当たり前のことだという。 「例えば、ごま豆腐という料理でも、お客さんの口にはごま豆腐だけが入るわけではありません。おやっさんがいくらいいごま豆腐を作ったとしても、その上にかける私が作った酢味噌がおいしくなかったら、台無しになってしまうんです。手は絶対抜けません」  師匠の教えは三浦さんにも受け継がれている。そして、その言葉の意味を3年前、三浦さんは身を以て体験することになったのだ。  突如、おやっさんが「くも膜下出血」を患って入院するというアクシデントが発生。その入院中に女将さんの薦めで、三浦さんは初めてカウンターにメインの料理人として立ち、お客さんを迎えるという機会を得たのだ。 「元々、プロの料理人になろうとか、将来、店を開こうとか思っていなかったので、店の看板を背負うことがどんなことなのか、まったく想像もしていなかったんですね。その時の来客は顔なじみばかりでした。とはいえ、『味重』の味を楽しみに来ているわけですから、期待を裏切るわけにはいけません。メニューはおやっさんの香りが残っているような料理を出すように心掛けました。一番苦労したのは、お刺身ですね。包丁のあて方とか、おやっさんのようにはいきませから、ごまかしが効かないんです」  そんな三浦さんをおやっさんこと、松原さんはこう評す。 「アッコはね、今までにボクが教えてきた弟子の中でもトップだね。味付けのセンスが抜群にいい」  師匠の言葉は、三浦さんにとって意外だったのかもしれない。「ホント、ですかぁ?」と驚いた後、うれしそうににっこり微笑んだ。

三浦 安紀子さん

日本料理店『味重』で活躍する料理人。本人曰く、「自分の味を追求する料理人よりも、アシスタントの料理人としてプロになりたい」。そんな思いで日々、オーナー料理人の松原滋美さんをサポートしている。

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